今年ももう少しで終わろうとしている。
普通の味噌屋では冬場に繁忙期が来て夏場は暇になるのが普通だが、うちでは少し違う。
当店は天然菌を中心に考えて、生活や仕事を動かしている。天然菌が採取出来始めるのは初夏の5月終わりから9月中旬にかけて。今年の夏場は気温が低く、朝は冷え込むので今年の採取もそろそろ終わりかなと思っている。
夏場に菌を採取して、それを一年かけて味噌や糀に変えていく。そのサイクルは夏に始まり夏に終わる。なので、夏の終わりは僕にとっては年の終わりのように感じる。
去年は菌が全然足りなかった。本当はもっと造りたかった味噌や糀もあった。もっと菌たちと戯れたかった。
でも満足に採取出来なかったおかげで菌のことをこれでもかと言うくらい考えた。見えない菌に問いかけた。どうすれば現れてくれるのか、どうすれば良い糀に仕上がってくれるのか、考えてみた。その上で、菌が降りてきやすい環境や気持ちの持ち方であったり、今までにない採取の仕方にも取り組んだ。
今年の夏も苦労した。
僕が菌を採取しようして、焦れば焦る程菌が降りて来なかった。降りてくるのは雑菌ばかり。今までは麹菌の優位性が勝っていたのに、それらの雑菌に負けてしまっていた。また降りてきても満足行く糀にならなかった。どんどん泥沼にはまる感覚で気持ちに余裕が無くなっていた。その気持ちの表れが菌にも伝わっていたのかもしれない。去年の夏から今年の夏にかけては、糀もお味噌も失敗が多かった。その為、ご迷惑をおかけした方々、本当にすみませんでした。お味噌に関しては結構な量を台無しにしてしまった。これは菌のせいではなく、僕が菌の気持ちを察することが出来なく、今までの成功例に甘えていたことが原因だった。過去の事例でうまくいった過程を再現しても、必ずしも成功するとは限らない。また製造過程で失敗したと思っていても期待を裏切るような出来の良い味に仕上がることもある。このことはお味噌を通して実感できた。
自分の中で納得の行く糀が出来て味噌に仕込んだものが、思いの外合格点には遠い味になっていることに菌の面白さを感じたと同時に技術の低さも痛感した。
人の思う成功と失敗は本当に紙一重なのかもしれない。
夏も終わりかけた今になって、ようやく、ほんの少し菌のことがまたわかった気がした。それをきっかけに菌たちは僕の回りにどんどん集まってきてくれた。僕はもっと菌と仲良くなりたい。そして秋から春にかけて菌が気持ち良く醸せるようなお味噌を仕込みたいと思う。
※報告
この夏に一つの味噌と冊子が仕上がった。
『ぼくたちは夏に味噌をつくる』
岡山・蒜山の農家 禾/kokumono のこんちゃんと神奈川・真鶴出版のしゅんさんたちと作った。
始めての自然栽培玄米×天然菌のお味噌で成功するか不安だったが、想像していた以上に美味しいお味噌に仕上がった。こんちゃんの人柄のおかげでストレスを感じることもなく、僕のやりたいように味噌造りに専念させてもらった。このお味噌を食べた時に言葉には表現出来ない手応えのようなものを感じた。より味噌が好きになった。この機会を作ってくれたこんちゃんを始め、関わってくれた多くの方や菌たちに感謝したいと思う。