一般菌から天然麹菌への切り替え

一般菌から天然麹菌へ切り替え

当店のお味噌のシリーズに

・自然シリーズ
・恵みシリーズ
・日々シリーズ

の3種類がある。

自然シリーズは無肥料・無農薬の自然栽培素材×天然麹菌、恵みシリーズは農薬・化学肥料不使用の素材×一般菌、日々シリーズは減農薬の素材×一般菌という規格で造っている。
そこで今年の夏以降に恵みシリーズも一般菌から天然麹菌に切り替えて仕込みた。
そもそも天然麹菌は自然栽培のお米に降りてきてくれるので、糀にする際も自然栽培のお米にしか菌糸を伸ばしてくれないと思っていた。しかし、菌たちからすると、降りてくるお米と繁殖に必要なお米では役割が違うようだ。こちらの想いに反して、有機肥料で作られたお米や減農薬のお米にも、しっかりと菌糸が生えてくれた。
なので、夏場から恵みシリーズの麦みそ、米みそ若桜と天然麹菌で仕込んだ。しかし気になっていることもある。これらの天然麹菌はきれいな自然の中から採取した野生麹菌で、彼らが有機肥料で育ったお米や減農薬で育てられたお米にたとえ菌糸を伸ばして繁殖したとしても、彼らの子孫の中に『純粋な自然』が消えてしまうのではと心配になった。人が手を加えた肥料、人が作り出した農薬(化学物質)のお米を食べて天然麹菌が菌糸を出すことは、天然麹菌は望んでいるだろうか。人の都合ではなく、菌の立場で考えると、やはり望んでないように思う。天然麹菌を採取した立場として、やってはいけないことのように感じた。まして天然麹菌に嫌われるようなことがあってはいけないから、彼らが望むようなお米や大豆を用意してあげたい。

ただ農薬・化学肥料不使用の恵みシリーズは天然麹菌に切り替えたい思いが強いので、とりあえず切り替えてみることにした。それは天然麹菌(野生麹菌)の力で、お味噌の魅力をもっと出さしてあげられるのではと思ったからだ。それがもし想いに反するようなお味噌の味になったり、予期せぬこと(天然麹菌が採取出来なくなる)が起こったら止めようと思う。
なので、全てのお味噌を天然麹菌に切り替えたいが、天然麹菌の気持ちや天然麹菌の意義を考えると、それはやってはいけないように感じた。

本来なら全て自然栽培に切り替えるのが良いのだろうが、それにはまだまだ時間がかかりそうだ。これからも菌に寄り添い、仲良くやっていけたらと思う。

※当店は天然麹菌の原菌しか使わないので、人為的な繁殖は一切していません。降りてきた菌をそのまま糀にしています。なので本文中にあった有機肥料や減農薬のお米を食べて糀になった天然麹菌の菌糸を使い回すことは一切ありません。

若桜町赤松地区で毎年作ってもらっている無農薬青大豆。米みそ若桜の原料になる

アレルギー

自然栽培 花豆

アレルギー

少し前から一人のお客さまとやり取りしている。その方はあらゆる食物アレルギーに悩まされていた。いつも懇意にしている販売店さんのお客さんで、今まで食べれていたお味噌が近年から食べれなくなって、相談にしたら当店を紹介してくれたそうだ。お味噌に悩んでいる方を当店に紹介してくれるのはうれしいし、何より本当はお味噌が好きなのに、食べれない人がいるのは味噌屋として何としても食べれるようにしてあげたい。味噌の仕事に携わってから味噌嫌いな人は居ても、味噌アレルギーは聞いたことなく、出会ったこともなかった。何かに背中を押さえたような感覚になった。僕が味噌屋になったのは少しでも味噌の魅力を伝えて身体の芯から喜んでもらえることだ。大きい会社では対応できないことこそ、小さな味噌屋が出来る利点だ。しかも最後の最後に当店に頼ってくれたこと、大袈裟かもしれないが、それは僕に与えられた使命だと思えた。僕はそのお客さまの為に、そのお客さまだけの味噌を造ることにした。

まずはお客さまと何回もやり取りをして、現状の確認をした。なぜ食べれなくなったのか?
どんなものなら食べれるのか?
お米は食べれるか?大豆は食べれるか?
色々と話を聞いているとお米は品種改良された現代の品種は食べれないそうだ。在来種でなるべく品種が古いものがいいそう。ただ現在はそれらのお米も食べれないと言われた。ただお味噌はお米がなくても造れる。そう。お味噌の中でも最も歴史の古い『豆みそ』だ。僕たちは豆みそを造ることになった。

豆だが、まず最初に思い浮かんだのが農薬のこと。そのお客さまがお味噌を食べれなくなった原因は原料の農薬にあるのではないかと思った。当店は自然栽培(無肥料・無農薬)の原料も扱っているので、その自然栽培大豆を送って食べてもらった。そこにある程度の期待を持っていたが、結果は食べれなかった。同じ自然栽培でも品種の相性が良くなかったのか、はっきりとした理由がわからない。それで原料の大豆はお客さまに用意してもらうことにした。

蒸しても表皮が硬かったので、菌糸が張りやすいように手で潰したり、包丁で割った

麹菌でも同じことが言える。味噌に限らず市場に出回っているほとんどの発酵調味料は化学的に培養されている麹菌から造られている。身体に敏感な人からするとアレルギー反応が起きても不思議ではない。天然麹菌はそんな人たちを助ける救世主になりえると期待してきる。

種付けから24時間後。天然麹菌はちゃんと醸してくれた

何日か経ってからお客さまから連絡があった。見つけてきたのは自然栽培の『花豆』だった。正確には「ベニバナインゲン」といって江戸時代の後期に日本に伝わったそうだ。冷涼な気候を好み、長野県などの一部でしか栽培されていないそう。数多くある豆類の中で花豆を味噌に変えている方はいるのだろうか。僕は色んな概念を壊さないと出来ないだろう今回の味噌造りに、すごい好奇心を抱いている。

種付けから30時後 黄緑色の胞子を少しずつ出そうとしている

塩も僕の知っている限りのものは駄目で、お客さまが用意してきたのは、長野県の山奥にある温泉から極少量しか採取できないという温泉水から出来たお塩だった。
これで材料は整った。本人が食べれる豆と塩に自然界で採取した天然麹菌を使えば、お客さまの身体にアレルギーは起こらないだろうと予測している。これら全ての原料に化学的な要素は一切ないので、後は天然麹菌に任せようと思う。

種付けから36時間後

いつも使っている当店オリジナルのFWH天然麹菌1号はお米から採取しているので、もしかしたらお客さまにアレルギー反応が起きるかもしれないので、今回は植物から採取した天然麹菌2号を使用する。

種付けから50時間後 周りにしっかりと胞子をつけてくれた。食べてみるとほのかに甘く、花豆の旨味もしっかりとあった。仕込みに入る

花豆は周りに硬い表皮がある為、そのまま菌をかけても菌糸が張らない。なので手で潰したり、包丁で切り目を入れて種付けした。

今回の例のように、お味噌が好きだけど普通のお味噌は食べれないという方や、どうしてもこの原料で自分だけのお味噌を造って欲しいという方はご相談に乗ります。お味噌のことなら駆け込んでください。何としても食べれるお味噌に仕上げれるよう最善を尽くします。日本人がお味噌を食べれない世の中だけは絶対に嫌だから。

天然麹菌にとって夏とは

天然麹菌にとって夏とは

若桜町の夏

某味噌屋さんのページを見ていると、天然麹菌の採取は7月に入って1週間以上30℃を超す日に採取できると書いてある。
その言葉を信じて、夏場は特に天然麹菌の採取に心を踊らせている。しかし、去年から夏場の採取には手こずっている。それは今年も同様で、なぜか夏場では思うように採取できない。
天然麹菌の採取には気温と湿度が関係している。夏場は気温こそは高いが湿度が低くなる。僕は温度よりも湿度の方が重要なのではと思っている。今までの経験上、天然麹菌の最も多く降りてきてくれる時期は6月と9月下旬から10月上旬にかけて。気温はそこまで必要ないのだ。気温が30℃以上なくても、22~23℃あれば充分繁殖してくれる。問題は湿度。いくら温度が整っていても60%を切るとお米の水分が乾燥して、エサとして認識してもらえなくなる。エサとして認識してくれたとしても子孫を残す為の菌糸が張れない。おそらく天然麹菌も地域性によって、それぞれの好みや生態性に違いがあるのかもしれない。
僕が住んでいる鳥取県若桜町は山陰の山際にある集落で、雨も多く、住んでいる人はどの季節も湿気とカビに 悩まされている。その環境に適応してきた天然麹菌だからこそ夏場の湿気が少ない時期には元気がないのかもしれない。
僕は以前にブログで『天然麹菌は夏の産物だ。』みたいなことを言ったけど、正確には梅雨か初秋みたいだ。天然麹菌が採取できると思い込んでいたから今年の夏は暑くても平気!と言い聞かせてきたけど、採取しにくいとわかってくると、余計に暑く感じる。

そもそも湿度だけが問題ではないのかもしれない。8月の頭に蒜山耕藝さんにお邪魔した際に『天然麹菌はどうですか?』と言われて『実は中々降りて来てくれないんです』と答えたら、ヘリコプターの農薬散布の話になった。田んぼの上だけに撒いたつもりでも、自然界においては広範囲において空気中に被害が被っている。それが天然麹菌の採取に影響しているのでは、という話になった。僕もこれについては疑問を抱いていただけに共感できた。人が思っている以上に、生き物にとって農薬のダメージはでかいのかもしれない。それは天然麹菌が教えてくれる。

これから天然麹菌を考えて、共存していく上で今回の農薬のことも含めて、農業は切っても切り離せないと日々強く思うようになった。菌目線での農業をする為には農薬を使わない自然栽培に取り組まないといけない。菌のための菌による循環型農業がこれからは必要になってくる。
近くにはそのような田んぼは存在しない。
その為にはどうやら自分がやらないといけないようだ。来年から新しい取り組みをしようとしている。