菌益は公益

菌益は公益

社会的共通資本は自然環境、社会的インフラ、制度資本の三種類がある。社会的共通資本は、それなしでは共同体が維持できないというものだ。そういった意味で公共的なものであり、私的利益ではなく公益だ。ここで自然環境に重点を置いて考えてみる。この自然環境は先祖代々受け継がれてきた貴重な自然資源で、これを私たちは後続世代に手渡す義務があると思う。自分たち世代の都合で海、山、土地、大気を汚すことは許されないのだ。
農業についても同じことが言えて、近年の農業の変革はすさまじい。私的利益(収益、収量)を重視した近代農業には農薬、化学肥料は欠かせない。私的利益を優先する企業が短期的に市場では勝者になり、自然環境を優先させた人たちは敗者になる。でも勝者の企業は私的な目線であり、100年、200年先のことまで考えていない。それは自然環境を考えた公益とは言えない。

菌に醸してもらう前のお米 蒜山耕藝さんが作った島根県安来市の在来種『亀治』

ここで菌目線で考えてみる。
天然麹菌は自然環境が保たれている場所、原料がある場所に降りてきてくれる。菌たちにとって近代農業がしてきた「収益の最大化」や「自己資産の最大化」は関係なく、むしろそれらのお陰で住処が無くなってしまう。
それでも菌たちは裏切ることなく、条件が整えば姿を見せてくれる。本当は気持ちよく、人間と共に暮らしたいと願っているはずだ。人と菌は太古から共存、共栄してきたが、その関係性が崩れかけている。人が菌の存在や恩恵を忘れていて、人目線の私益に走っているのだ。
菌益を考えることは自然環境を維持していくことに繋がると考えている。菌たちがどうやったらもっと住みやすいか、喜ぶか、それらを意識することで自然と自然環境の維持に繋がり、それが公益に繋がり、次世代に受け渡していけるのではと思う。

自然が醸す、無添加非加熱の味噌
藤原みそこうじ店

FWH天然麹菌1号

FWH天然麹菌1号

大学に天然麹菌の遺伝子検査を依頼していてその結果、見事安全な天然麹菌(自然界には毒素を出すタイプの麹菌も存在しています)であることが判明しました。これだけ天然麹菌の話をしているのに、毒素が出たらどうしようかと内心ドキドキしていました。これで安心してお客様にも提供でき、より麹や味噌、自然界の魅力を伝えていけると思います。

天然麹菌の名前は『FWH天然麹菌1号』

造り手(藤原みそこうじ店:fujiwaramiso)、採取地(若桜町:wakasa)、採取物(蒜山耕藝さんの自然栽培米hiruzen)

顕微鏡で撮影したFWH天然麹菌1号

これらの頭文字から一文字づつもらいました。検査の結果、FWH天然麹菌1号には何種類かと麹菌が混在しているようです。目に見えない世界にも無数の菌たちが織りなし、お米を醸してくれているんですね。

現在は天然麹菌2号の採取にも成功し、天然麹菌の可能性に驚かされています。FWH天然麹菌1号で仕込んだ味噌は今年の冬か年明けには完成予定です。また報告しますので、是非、自然が醸すお味噌をご賞味ください。

自然が醸す、無添加非加熱の味噌
藤原みそこうじ店

自然とは不安定~天然麹菌から見える自然界の不安定さ~

自然とは不安定なもの
天然麹菌から見える、自然界の不安定

何が原因なのかわからないが、今年は天然麹菌の採取に少し苦労している。採取できないということは、それはどこかで異変が起きていることを意味する。それが原料なのか、水なのか、空気なのか、それとも僕自身が嫌わる何かをしてしまったのか、それは見えない菌たちが何かを訴えかけてくれている証拠。それに僕は気づいてあげないといけない。
全く採取できていないわけではなく、ただもっと降りてきてくれてもいいだろうという僕の願望だ。菌たちにとったら、これくらい醸せれば十分だと思っているのかもしれない。

今の社会はあまりにも人間目線で成り立っていて、人は皆、安定を求めている。その安定さに慣れてしまうと臨機応変が出来ない頭になってしまう。また、その安定にのおかげで本質が見えにくくなる。
例えば、僕の仕事である味噌造りに置いてもそれが言えて、特に顕著に表れるのが麹造りだ。市販の麹菌を買えば、ある程度知識があれば麹は作れる。この『作れる』というのは、あくまでも普通の麹ができるというもので、麹の良し悪しはピンきりなので、プロの麹にははるか及ばない。市販の麹菌でも職人さん程の麹を作ろうと思えば、長年の経験と知識が必要だ。
それでも麹菌と知識さえあれば、さほど難しいものではない。それはなぜかというと市販の麹菌は化学的に培養されて、とても優秀な菌だけで成り立っている。とても「安定」しているからだ。なので、教科書通りにしていれば作れる。一定の時間が経過したら発熱して……というのがわかるし、それ通りに行くからだ。
しかし、天然麹菌はそうはいかない。今までの教科書通りに経過してくれない。違う日に採取した天然麹菌もまた違う経過を見せる。ここで必要なのは、知識ではなく、感じて菌に寄り添うこと。市販の麹菌は安定した成長を見せるので、何時間も目を離していてもある程度大丈夫。ほっておいても彼らの力で成長が進む。でも天然麹菌はつきっきりで見ておかないと、すぐに愛想を尽かせてしまう。天然麹菌には、それぞれに個性があるので、それを察してあげないといけない。

この不安定さこそが自然そのものだと思い始めた。安定を求めれば求めるほど、自然から離れていくのだ。
予期せぬことが起こりうる今後の地球上の出来事に、うまいこと対応していきたいと思う。そのヒントは天然麹菌が教えてくれるだろう。

裏山から眺めた若桜町 

自然が醸す、無添加非加熱の味噌
藤原みそこうじ店