美味しいとは

地方で仕事をしていると、近所の方達の声が嫌でも聞こえてくる。それが良いところでもあるが、たまに気を落としてしまうこともある。例えば、「美味しくない」という声を人伝えに聞くことがある。造り手として落ち込むこともあるが、あまり気にしないようにしている。ナショナルブランドのように万人受けするような味をそもそも最初から造っていない。自分の造りたいもの、造りたい味に少しでも近づけるようにしていて、それに後から周りが共感してもらえたらと思っている。自分の味覚こそが判断基準で、自分こそが一番のファンでありたい。

若桜に流れる八東川

天然麹菌(野生麹菌)の採取に取り組んで、当店のお味噌もなるべく天然麹菌に切り替え始めている。市販の一般麹菌は優秀で甘み、旨味を出す力は申し分ない。天然麹菌の魅力は複雑的な味わいと、この場所でしか採れない為、この場所でしか出せない味に仕上がる。味だけを見たら一般麹菌の方が良いのかもしれない。美味しさだけを基準に考えると…少し不安に思う自分がいた。これは自分のエゴなのかもしれない。また周りから「美味しくない…」の声が聞こえてくるかもしれない。
そんな時、たまに足を運んでいる智頭町のパン屋・タルマーリーの渡邉格さんと立ち話をしているときにこの話をしてみた。そしたら『美味しくなくてもいいじゃん。それでも僕は買うよ』と仰ってくれた。

救われた一言だった。そうか、美味しくなくてもいいんだ。もちろん美味しくなくてもいいなんて開き直っていないが、それでも気持ちは軽くなった。同じ「美味しくない」でも、本質をわかってくれている人の言葉と、顔も見たことがない知らない人の「美味しくない」とでは全く異なる捉え方だ。

糀と大豆を合わせる

そもそも「美味しさ」とは何なんだろうか。その土地でしか味わえないもの、その時期でしか味わえないもの、少し前には当たり前のようにあったはずだ。食のグローバル化が進み、流通や資本が豊かになって、何でも手にはいるようになった。それが果たして本当の美味しさなのだろうか。その反面、土地に根差していた食文化が廃れてきている。天然麹菌と人の関係性も少し前まで共存共栄してきた。その土地の「美味しさ」はその土地でしか出せない。
多くの人に理解はされないかもしれないが、こうやって理解してくれる人もいる。この人たちだけを喜ばせれるそんな味噌を作っていきたい。万人受けするような味噌ではなく、良き理解者たち、何より菌たちが喜ぶような、そんな味噌造りが出来たらと思う。

今年収穫した若桜町産 無農薬六条大麦

自然が醸す、無添加非加熱の味噌
藤原みそこうじ店

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